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最終更新日:2026.09.24
春、ミツバチが引越しする。
分蜂 —— ミツバチの引っ越しシーズンのすべて。
分蜂(ぶんぽう)とは、ミツバチの群れが二つに分かれ、新しい巣をつくるために旅立つ自然現象です。
春になり、花が咲き始めると、巣の中では新しい命が次々と誕生します。群れの仲間が増え、巣が手狭になってくると、古い女王蜂は働き蜂たちの一部を連れて巣を離れます。空いっぱいに広がるミツバチの群れは、まるで黒い雲のよう。驚いてしまう光景ですが、これはミツバチたちにとって新しい暮らしを始めるための大切な旅立ちです。
養蜂家にとって春は、一年で最も目が離せない季節。無事に新しい巣へ落ち着いてくれるのか、元の群れは元気に育つのか——。
今回は、ミツバチたちの「引っ越しシーズン」ともいえる分蜂についてご紹介します。
分蜂って何?——ミツバチの「引越し」のしくみ
春になると、ときどき巣箱から大量のミツバチが一斉に飛び立つことがあります。
これは「分蜂(ぶんぽう)」と呼ばれる、ミツバチたちの自然な営みです。
巣の仲間が増え、手狭になった頃、古い女王蜂は働き蜂たちの一部を連れて新しい住まいを探す旅に出ます。一方、次の女王蜂が育つ王台が残り、その後を引き継ぎます。
つまり分蜂とは、ひとつの群れがふたつの群れへと分かれること。ミツバチたちが仲間を増やし、命をつないでいくための大切な仕組みです。
親の群れから新しい群れが独立する、「のれん分け」に近いもの。長い時間をかけて受け継がれてきた、ミツバチ社会の伝統的な旅立ちなのです。
なぜ春に起きるの?
分蜂が最も多く見られるのは、花々が咲き始める春です。
冬の間、ミツバチたちは巣の中で身を寄せ合いながら静かに過ごしています。そして春になると、気温の上昇とともに活動が活発になり、女王蜂はたくさんの卵を産み始めます。
花蜜や花粉が豊富になるこの季節は、ミツバチたちにとって一年で最も子育てに適した時期。次々と新しい仲間が誕生し、巣の中は急速ににぎやかになっていきます。
やがて群れの数が増えすぎると、ひとつの巣では暮らしきれなくなります。そこでミツバチたちは群れを二つに分け、新しい住まいへと旅立つ準備を始めるのです。
つまり分蜂は、群れが順調に成長している証でもあります。春の豊かな自然が、ミツバチたちの新しい旅立ちを後押ししているのです。
分蜂のシーズンは地域によって異なりますが、春から初夏にかけて続くこともあります。また、ひとつの群れが同じ年に複数回分蜂することもあり、「第一分蜂」「第二分蜂」と呼ばれることもあります。
分蜂はどうやって起きる?——ドラマチックな7ステップ
ある春の日、巣箱の中では静かに大きな変化が始まっています。実は分蜂は、その日の突然の出来事ではありません。新しい群れが誕生するまでには、ミツバチたちによる入念な準備があるのです。
STEP 1 新しい女王蜂を育て始める
群れが大きくなってくると、働き蜂たちは新しい女王蜂を育てるための特別な部屋「王台(おうだい)」をつくります。ここから、分蜂へ向けた準備が始まります。
STEP 2 新しい住まいを探し始める
一部の働き蜂は、将来の住まい探しを始めます。木のうろや建物の隙間など、巣に適した場所を見つけては巣へ戻り、仲間たちに情報を伝えます。
STEP 3 旅立ちの準備をする
分蜂が近づくと、旅立つミツバチたちはたっぷりとはちみつを食べます。これは長旅のためのエネルギーであり、新しい巣づくりのための大切な備えでもあります。
STEP 4 一斉に飛び立つ
暖かく穏やかな日になると、巣箱から数千〜数万匹のミツバチが一斉に飛び立ちます。空に舞うその姿は、まるで黒い雲のよう。分蜂の最も印象的な瞬間です。
STEP 5 蜂球をつくる
飛び立った群れは、すぐに遠くへ行くわけではありません。近くの木の枝などに集まり、女王蜂を中心に大きな塊をつくります。これを「蜂球(ほうきゅう)」と呼びます。
STEP 6 新居を決定する
蜂球で待機している間も、偵察蜂たちは新しい住まい探しを続けています。候補地を比較しながら、群れにとって最も良い場所を選んでいきます。
STEP 7 新しい暮らしが始まる
新居が決まると、群れは再び空へ舞い上がり、新しい住まいへ向かいます。到着したミツバチたちは巣づくりを始め、こうして新しい群れの生活がスタートします。
私たちには突然の「引越し」のように見える分蜂ですが、その裏では何週間も前から準備が進められています。新しい命を育て、新しい住まいを探し、新しい群れをつくる——。分蜂は、ミツバチたちが未来へ命をつないでいくための大切な営みなのです。
分蜂した群れはどこへ行く?
新しい住まいが決まると、分蜂した群れは一斉に目的地へ向かいます。
では、ミツバチたちはどんな場所を新居として選ぶのでしょうか。
自然界では、木のうろや岩の隙間など、雨風をしのげて外敵から身を守りやすい場所が好まれます。また、人の住まいの屋根裏や壁の隙間など、暖かく安定した空間に巣をつくることもあります。
ミツバチたちにとって大切なのは、安心して子育てができること。広すぎず狭すぎず、温度や湿度を保ちやすい場所が理想の住まいです。
養蜂家が巣箱を設置している場合は、その巣箱に入ってくれることもあります。養蜂家にとっては、とてもうれしい瞬間です。
新居に到着したミツバチたちは、旅立ちの前に蓄えたはちみつをエネルギーにして蜜蝋を分泌し、新しい巣をつくり始めます。そして女王蜂が産卵を始めると、新しい群れの暮らしが本格的にスタートします。
春の空へ飛び立った群れは、こうして新しい住まいで再び家族を増やしていくのです。
養蜂家にとっての分蜂——嬉しい?困る?
分蜂はミツバチたちにとって自然な営みですが、養蜂家にとっては少し複雑な出来事です。
まず、分蜂が起きるということは、その群れが元気に育っている証拠でもあります。
冬を乗り越え、たくさんの働き蜂が育ち、新しい群れをつくれるほど力を蓄えている状態だからです。
そのため、春に分蜂の気配を感じると、「今年も順調に育っているな」とうれしくなることもあります。
一方で、養蜂家にとっては悩ましい面もあります。
分蜂によって群れの半数近くが旅立ってしまうと、一時的に働き蜂の数が減り、採れるはちみつの量にも影響が出ます。また、旅立った群れを見失ってしまうと、そのまま戻ってこないこともあります。
だからこそ養蜂家は春になると、巣の様子をいつも以上に注意深く観察します。新しい女王蜂を育てる王台ができていないか、群れが混み合っていないか。ミツバチたちの小さな変化を見逃さないように目を配ります。
それでも自然の力はとても大きなもの。
養蜂家が準備をしていても、ある日突然、空いっぱいにミツバチが舞い上がることがあります。
分蜂は喜びでもあり、緊張でもある——。養蜂家にとって春が特別な季節である理由のひとつです。
分蜂を目撃したら——慌てなくて大丈夫
春になると、公園や庭木の枝先に、黒いボールのような塊がぶら下がっていることがあります。
それは「蜂球(ほうきゅう)」と呼ばれる、分蜂中のミツバチたちかもしれません。
突然たくさんのミツバチを見ると驚いてしまいますが、蜂球になっているミツバチたちは、新しい住まいへ向かう途中の状態です。
実はこのときのミツバチたちは、旅立ちの前にはちみつをたっぷり食べていて、比較的おとなしいといわれています。もちろん野生の生き物なので注意は必要ですが、刺激しなければ攻撃的になることは多くありません。
もし蜂球を見つけたら、近づきすぎず、そっと見守るようにしましょう。枝を揺らしたり、物を投げたり、水をかけたりするのは禁物です。
蜂球は一時的な集合場所であることが多く、数時間から1日ほどで新しい住まいへ移動していきます。
もし人通りの多い場所や生活に支障のある場所にできてしまった場合は、無理に対処しようとせず、地域の養蜂家や自治体へ相談してください。
春の空の下で見られる蜂球は、ミツバチたちの新しい暮らしが始まる前のひととき。
少し離れた場所から見守れば、その小さな生命のドラマを感じることができるかもしれません。
HACCI養蜂家DDに、もっと聞いてみました
ミツバチの世界をのぞいてみると、まだまだ気になることがたくさん。
そこで、HACCI養蜂家のDDに直接聞いてみました。ミツバチたちのこと、養蜂のこと、そしてDDだからこそ知っている小さな発見まで。ここからはQ&A形式でお届けします。
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Q1 分蜂が始まる瞬間、養蜂家としてどんな気持ち?
巣箱の前がいつもより騒がしいな、と思ったら突然バーっと蜂が飛び出してきて——「あ、来た!」という感じ。群れが元気な証拠だから嬉しいんですが、事前に防がないと半分の群れを失うので焦る。あの数秒で「今年も春が来たんだ」と実感します。
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Q2 分蜂を初めて見たとき、どう思った?
最初は「すごい光景だな」と思いました。木の枝に数万匹のミツバチがかたまって、圧巻なんですけど。近くで見ると蜂の羽音がすごくて、迫力がある。ただ養蜂目線だと採蜜期に分蜂は起こってはいけないので、日々注意深く内検しています。
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Q3 分蜂を予防するために、養蜂家はどんな工夫をしているの?
王台(新しい女王蜂の巣房)が作られ始めたら、早めに対処するのが基本です。王台を取り除くか、自分で群れを分割するか。ただ、自然の勢いって強くて、気づいたら分蜂していた、なんてことも。完璧に予防するのは難しいので、分蜂の兆候を見逃さないよう毎日の観察が大切です。春は特に巣箱から目が離せない季節ですね。
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Q4 分蜂した群れを捕まえるのはどうやるの?
蜂球ができたらなるべく早く対応します。巣箱を蜂球の下に置いて、枝ごとゆっくり中に入れるか、手袋をして群れを箱の中にまとめる感じで。一番大事なのは女王蜂を捕まえること。女王蜂さえ巣箱に入れば、他の蜂は自然についてきます。逆に女王蜂を逃がすと全員飛んで行ってしまう。冷や汗をかきながらやっています。
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Q5 分蜂を知ると、春のミツバチへの見方が変わると思う?
変わると思います。たまに街中でミツバチが多く飛んでいると感じる人もいると思いますが、あれは分蜂シーズンで群れが活発になっているから。「春のミツバチは分蜂の季節」と知ると、街中や公園の木に蜂球を見かけても怖くなくて、むしろ「おお、引っ越し中だ!」という気持ちで見られるようになる。自然の大事件を目撃しているんだという感覚が生まれると思います。その際は落ち着いて市区町村の役所に連絡するのが確実かと思います。春のはちみつが美味しいのも、この分蜂シーズンのエネルギーが詰まっているからかもしれない——そう思うと、一瓶の重みがまた変わってきますよね。
まとめ
春の分蜂は、ミツバチたちが命をつなぎ、未来へと群れを広げていくための大切な旅立ちです。空いっぱいに舞うミツバチの姿や木の枝に集まる蜂球は、新しい暮らしが始まる前のひととき。私たちが驚くその光景も、ミツバチたちにとっては自然の営みのひとつなのです。
- 分蜂は、ひとつの群れがふたつに分かれて新しい群れをつくるための自然な営みです。
- 春はミツバチたちが最も活発になる季節であり、分蜂が起こりやすい時期です。
- 分蜂は、新しい女王蜂の誕生と新居探しを伴う計画的な旅立ちです。
- 分蜂した群れは、安全で暮らしやすい場所を見つけて新しい巣を築きます。
- 養蜂家にとって分蜂は、群れの成長を喜ぶ気持ちと緊張が入り混じる出来事です。
この記事は、HACCI BEE FARMの養蜂家 DD水谷 監修のもと制作しています。
- DD Mizutani
- 1993年生まれ。100年以上続く養蜂家・水谷家の一員として生まれる。
幼少期からミツバチとともに育ち、現在はHACCI BEE FARMにて、ミツバチが健やかに暮らせる環境づくりを軸に養蜂を行っている。
HACCI BEE FARMでは、ミツバチが一年を通して過ごしやすい環境づくりに取り組み、自然と共生する養蜂を実践している。
自然と共生する養蜂を通じて、はちみつの新たな価値や可能性を探求している。
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